2011年12月22日木曜日

お屠蘇



毎年、この時期になると「屠蘇散(とそさん)」をお得意様や漢方相談にこられている患者さんに差し上げております。


で、お友達なんかに「え、お屠蘇ってただのお酒かと思ってたー」とか言われるので、今日はお屠蘇についてです。(学者的なうんちくはWikipediaでも見ていただくと良いと思います)


屠蘇散は「実用漢方処方集」にも掲載されています。


延寿屠蘇散
白朮(びゃくじゅつ) 桔梗(ききょう) 山椒(さんしょ) 防風(ぼうふう) 肉桂(にっけい) 大黄(だいおう)


『日本では宮中行事から民間に広がった。近世になって曲直瀬玄朔(まなせげんさく)が、毒性の強い薬を抜いて、五味ないし六味としたのが今に続いている』とあります。
大黄とか烏頭(うず)といった作用の強いものは今は当然抜かれています。


からさわ薬局でお出ししているものは、「山椒果皮、みかん皮、桔梗根、浜防風、桂皮、おけらの茎葉」と表示していますが、生薬名にすると「山椒、陳皮、桔梗、防風、桂皮(けいひ/処方集にある肉桂は桂皮のこと。いわゆるシナモン)、白朮」となります。
もちろん食品として流通しているので、効能効果は書けません。


だいたい一味0.4g程度の配合で作られているようです。


この生薬を配合した「屠蘇散」を一晩清酒につけて出来上がったものがお屠蘇です。
即席の薬酒ですね。


薬酒といえば養命酒なんかが有名ですが、実際には無数にあります。




さて。


漢方薬といえば、◯◯湯とか言いますように、ひとくくりにして「湯液」と言います。


東洋医学の養生の古典である「黄帝内経素問」によると…


大昔、精神的にも肉体的にも無理をしなかった時代は、病気になると一味の生薬を入れたお粥(重湯)で治していたといいます。それでも治らないときには、薬酒を用いたといいます。


聖人と呼ばれた人たちは薬酒を作って用意していたが、それも滅多に使わなかったといいます。


しかし、今の時代は心身ともに無理をする人たちが増えてきたので、こういった軽い作用のものでは病気を治せなくなり、色々と作用の激しい物も含めた薬味を組み合わせて、処方(湯液)が作られるようになった。


というようなことが書かれています(素問:湯液醪醴篇第十四)


ここで言う「今の時代」ってのが数千年前のことですから、まして現代ではお粥や薬酒で治る病気はありません。


さて、お屠蘇に戻ります。
一味のお粥、薬酒、湯液という流れからみると、お屠蘇も単なる儀式的なものではなく、薬のうちで、今の時代の病気を治す薬にはならないですが、予防的な価値はないわけじゃないだろうなと思われます。


山椒、陳皮、防風、桂皮、白朮はどれも香りがあります。桔梗はあまり芳香がありませんが、薬効を体表面に持っていく働きがあります。


全体には温性で芳香性の「散」(発散)に働きます。


この屠蘇散の中で、特に重要な薬味で(どれも重要ですが)、長生きするのに役に立つのは白朮じゃないかなと思います。白朮酒をつけておいて、毎晩ほんの少しずつ飲むのをもう少し歳になったらやろうかなと思います。




今年のお客様用の屠蘇散はもう少しでなくなります。





2011年12月14日水曜日

くす玉

パンパカパーンなイメージのくす玉ですが、元は「薬玉」。
おめでたいときに使うので「久寿玉」の字をあてることもありますね。


薬玉、そう、まさに「薬を入れた玉」。


どんな薬が入っていたのか私には正確なことは解りませんが、ぶら下げて魔除けにしていたとしたら間違いなく香りのする生薬ですね。


生薬の「香り(芳香)」とは、すなわち「気」であります。


気にはたらくものは必ず香りがあります。


香りの気と対になるのが味。
合わせて「気味(きみ)」といいます。


生薬の働きを知る上で欠かせないのが気味の厚薄を鑑別することです。同じ生薬でも産地や品種によって気味が違います。
「この生薬はこの気味のバランスが良品」と決まっているものもあれば、病気の状態によって使い分けるものもあります。


良い香りのするもの、すなわち良い気で悪い気(邪気)を払おうという発想から、薬玉のようなものが生まれるというのは、とても東洋医学的な発想だと思います。


まあ、ぶら下げてないで飲めよ…って思いますけどね。



東洋医学でいう「気」ってなんだかわからない用語ですが、ワサビがツンとするのも東洋医学でいう「気」です。

熱々のうどんに七味をふりかけてずずーっとすすって汗をかくのも気です。


難しく考えないで、「はー、そういうもんですかねー」って見ていくとだんだん解ってくるんじゃないかと思います。